鮮度が決め手 みずみずしさあふれる五ケ瀬ワイン  0982アーカイブ(2015・10月)

“夕日の里”として知られる五ケ瀬町桑野内。遠望する中岳、根子岳などの阿蘇五岳は、お釈迦様が頭を右側にして仰向けに寝ているように見えることから、“逆涅槃(ぎゃくねはん)像”と呼ばれる。好天の日に阿蘇五岳に沈む夕日は雄大にして荘厳だ。

この阿蘇五岳や外輪山、桑野内の集落を見下ろす小高い丘の上にあるのが、宮崎県北唯一のワイナリー「五ケ瀬ワイナリー」。会社設立は平成15年(2005)7月11日だが、ワイン製造がスタートしたのは2年後の平成17年。今年で製造開始から10周年を迎えた。

町内産のブドウのみを使用したワイン造りにこだわり、みずみずしさあふれるフルーティーな五ケ瀬ワインを製造。2015年8月の日本ワインコンクールでナイアガラが銅賞(北米系等品種白部門)を受賞するなど、着実な歩みを続けている。2015年産新酒の仕込みが始まった9月上旬、五ケ瀬ワイナリーを訪ねた。

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五ケ瀬町産ブドウ100%

ワイナリーに着いたのは、午前7時過ぎ。平野部ではまだまだ残暑厳しい朝が続くなか、標高600メートルの高地にある五ケ瀬ワイナリーの朝はかなり肌寒い。

静寂のなか、ワイナリー本館の裏手から回転する機械の音と、トントンという箱を叩く音だけが響いてくる。既に搾汁作業が始まっており、あたり一面にブドウの甘い香りが立ちこめていた。

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収穫箱が積み上げられたパレットの上に立ち、ブドウの詰まった箱を抱え、除梗(じょこう)破砕機と呼ばれる機械に投入しているのは、製造課の藤本新一さん(37)。ブドウの房から梗(こう)と呼ばれる茎を取り除き、果実を軽く潰してくれる機械だそうだ。

機械の下部には、機械の回転に合わせて梗から切り離された果肉が果汁とともに絞り出され、ローターから太いパイプを伝わって隣にある搾汁機に送り込まれていく。この機械で果汁だけが搾り出され、一晩寝かせて搾りカスを沈殿させ、上澄みだけを別のタンクに移動。

そこにワイン酵母を入れて発酵させると、約2~3週間でワインになるのだ。

この日行われていたのは、五ケ瀬ワインを代表するナイアガラの仕込み。栽培農家が前日までに収穫して搬入していた約4トンを搾汁した、という。

例年、ワインの仕込み作業は8月後半ごろから始まり、遅い時は11月まで続く。今年は10月17日からイオン九州全店で「みやざき地ワインヌーヴォーフェア」が開催され、ナイアガラとデラウエアの新酒を出品することになっているため、ナイアガラの仕込みとしては例年より早いスタートとなった。

「今年は梅雨時期が長く心配したが、それ以降好天に恵まれ、例年より10~14日ほど収穫が早くなった。近年でも早い方じゃないか。色乗りが良く、酸味もしっかり残っている」と話すのは、製造責任者の佐伯一朗係長(42)。収量的には、豊作だった昨年の100トン超には及ばないものの、「80~90トンぐらいを見込んでいる」という。

五ヶ瀬ワインは、標高と寒暖の差を生かしてできる上質のブドウを原料に、糖度がありながらも、ほどよい酸味が残ったみずみずしくフルーティーな味に一番の特徴がある。

それだけに「原料の善し悪しでその年の出来が変わってくるので、収穫のタイミングが大事になってくる。農家を一軒一軒回ってブドウの状態を見たり、週一の割合でサンプルを出してもらったりして収穫のタイミングを計り、一番良い時期に収穫したものを仕込みしている」と佐伯係長は話し、「よく冷やして、ブドウ本来の味を感じながら味わっていただきたい」とアピールした。

 こだわりのワインを造り続けて10周年

新たな地域の特産品をと五ケ瀬町でブドウの試験栽培が始まったのは、平成8年(1996)。同11年に五ケ瀬町ぶどう生産組合が発足し、平成15年には町を筆頭株主に五ケ瀬ワイナリー株式会社が設立された。

ワイナリーのオープンは平成17年11月23日。五ケ瀬ワイン第1弾として初蔵出しされたのは「ブラックオリンピア」だった。

現在は赤ワイン、キャンベルアーリー(ロゼ)、シャルドネ、ナイアガラ(白)など、7銘柄を中心に、年間10万本を製造販売している。今年からナイアガラを使ったスパークリングワイン「樹々」、10周年を記念したキャンベルアーリーのスパークリング「桜舞」の製造もスタートした。

この10年間、生産者と町、ワイナリーが一体となり品種向上に努めてきた結果、主力商品であるナイアガラは、平成19年から21年までの国産ワインコンクールの北米系等品種白部門で3年連続銅賞を獲得。今年もサクラアワード2015でシルバー賞、8月の日本ワインコンクールで銅賞を獲得するなど、全国的な知名度も上がってきた。通信販売やネット販売を通じた注文も増えつつある、という。

「ワイナリーとしては、10周年はまだ若い方。この10年間、ブドウの品質を損なわないように、ブドウの味を壊さないように少しずつ造り方を変えながらやってきた。今では生産者の意識も『おいしいブドウでないといいワインはできない』と変わってきている」。総務課の藤本和秀係長(38)は振り返る。

収穫したてのナイアガラを搬入してきた生産者の一人、三ケ所の甲斐幸吉さん(65)は、「指定された日に熟し具合を見て収穫できる分だけを搬入している。地元でワイン製造が始まって、ワイン自体に対する興味が湧いてきた。自分が育てたブドウでできたワインの新酒をまず自分で飲んでみるのが一番の楽しみ。地元でワインができるとやりがいを感じる」と笑顔だ。

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もちろん、11年目に向けて課題も多い。特に過疎、高齢化の進展は深刻だ。

製造開始した10年前、38戸あった栽培農家は、現在は28戸まで減少。しかも60~70歳代が中心で、高齢化が進んでいる。五ケ瀬ワイナリーは、五ケ瀬産ブドウ100%によるワイン造りにこだわるだけに、生産者の減少はワイン製造量の減少に直結する。

そのため、生産量確保のためのスタッフ5人を雇用。作り手のいなくなったブドウ畑をワイナリーが借り上げ、直接栽培に切り替えて原料確保を図っているのが現状なのだ。

「農業の振興というワイナリー設立当初の目的のためにも、新たな生産者を見つけながら、生産を続けているところ」と藤本係長。

原料だけでなく、総勢20人のスタッフの9割が五ケ瀬出身者という“こだわり”のワイナリーの、20周年に向けての新たなスタートを応援したい。

 

※この記事はひむか人マガジン「0982」53号=2015年10月7日発行=に掲載しました。

 

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