高千穂町が2015年に「世界農業遺産」に認定されて昨年で10周年を迎えました。それを記念し、「山腹用水路と地形に学ぶ棚田の成り立ち」と題した現地研修会が2月20日、同町役場と岩戸川沿いの棚田周辺で開かれました。町内外から参加した約30人が、座学と実際に棚田周辺の山腹用水路を歩いて散策するフィールドワークを通じて、暮らしの中で培われた智恵と先人の努力が造り上げた、世界に誇るべき棚田景観の価値を改めて感じました。
世界農業遺産に認定された高千穂町を含む高千穂郷・椎葉山地域では、平地が極めて少ない環境下で、人々は針葉樹による木材生産、広葉樹を活用したしいたけ生産、高品質の和牛生産、茶の生産、棚田での稲作等を組み合わせて生計を立ててきました。
標高の高い傾斜地で農業用水を確保するために建設された山腹用水路は約500キロもあり、それらによってかんがい水を得ている棚田は約1000ヘクタールの広さに及びます。山腹用水路は用水供給のほか、斜面を流れ落ちる雨水を受け排水することで、周囲の集落を災害から守る役割を果たしています。
町内には「棚田百選」から名称変更し選び直した「つなぐ棚田遺産」が4カ所あり、そこを潤す山腹用水路の距離は約192キロにも及んでいます。
この日の講師は、宮崎大学農学部所属で世界農業遺産を研究するGIAHS(ジアス)研究会のメンバーでもある竹下伸一(たけした・しんいち)准教授が務めました。竹下准教授は2023年1月に放送されたNHKの「ブラタモリブ」に用水路の専門家として出演しています。


現地研修会は2018年以来で、今回で3回目です。町役場で行われた座学では、竹下准教授が高千穂の特徴的な地形の成り立ちや用水路と棚田の関係について写真や図を使って詳しく説明しました。
その中で竹下准教授は、江戸時代の中期ごろぐらいまではほとんど水田のない地域で、全部合わせても30町(約30ヘクタール)しかなく、焼畑を中心とした地域だったことを紹介し、その原因として高千穂周辺は約12万年前と約9万年前の阿蘇山の爆発による火砕流が谷を埋めてしまい水が溜まりにくい火砕流台地の上に集落があるため、水田に使う用水の確保が難しい地形であることを地質のデータや図を示しながら話しました。
その上でどうしても米を作りたいと願った高千穂地区の先人たちが、急峻な山の中にもかかわらず苦労して困難な用水開発を行い、岩戸川の上流から長い水路を作ることで地形的制約を克服してきた結晶がこの地域の山腹用水路であり、棚田だなどと解説しました。
この後参加者はマイクロバスで、栃又・川登の棚田を見渡せる展望所に移動して、展望所への歩道途中を流れる高千穂用水(岩川用水と耕地用水の2本を合わせて高千穂用水という)を観察しながら、展望所からの景観や竹下准教授の解説を聞きました。
さらに、岩戸川を挟んで対岸にある野方野公民館に移動し、公民館から岩戸用水路沿いを歩きながら、約1・7キロ先にある尾戸の口棚田を目指しました。
途中、近年の道路整備に合わせてできた水路橋や水管橋を観察したり、竹下准教授の解説を聞いたり、高台から眼下に広がる棚田の景観を観察したりしました。

















