• 2016.11.21

映画「しゃぼん玉」が完成 原作者・乃南アサさんインタビュー

直木賞作家・乃南アサさんのベストセラー小説が原作で、宮崎が舞台となる映画「しゃぼん玉」が完成しました。2018年3月に全国公開されます。映画の舞台は椎葉村。今年の3月18日から4月上旬まで、椎葉村を中心に県北各地でロケが行われました。11月12日、椎葉平家まつりでの映画プロモーションで椎葉村を訪れた乃南さんに完成した映画や、舞台となった椎葉に対する思いなどを聞きました。

 

血のつながり超えた絆描く感動作

 

原作は、親に見捨てられ、通り魔や強盗傷害を繰り返す無軌道な若者が、逃亡先で偶然出会った老婆や村の人々の愛情によって、なくした感情を取り戻していく様を、宮崎を舞台に描く感動作。孤独な若者と老婆の出会いを通じて、血のつながりを超えた絆を描きます。

 

「亡国のイージス」などで助監督を務め、テレビ「相棒」シリーズでは20話近く監督を務める東伸児(あずま・しんじ)さんの初監督作品です。

 

2018年3月、全国公開

林遣都、市原悦子主演

 

キャストは、主演の伊豆見翔人役に「荒川アンダーブリッジ」(主演)、「悪の教典」、又吉直樹原作のドラマ「火花」(主演)、NHK大河ファンタジー「精霊の守り人」など立て続けに話題作に出演し、活躍が目覚ましい若手俳優の林遣都さん。

 

伊豆見が逃亡先で出会う老婆・スマ役に、ドラマ「家政婦は見た!」シリーズでおなじみ、日本を代表する女優・市原悦子さん。

 

ある事件をきっかけに村に戻ってきた美知役には、公開中の「デスノート2016」に出演するほか、韓国で爆発的人気の新鋭・藤井美菜さん。厳しくも伊豆見を見守る村人・シゲ爺役に綿引勝彦さん、スマの息子役に相島一之さんら、日本を代表する演技派が揃いました。

 

今回の作品は、県北を中心にオール宮崎ロケとなることから、県北9市町村で構成する宮崎県北部広域行政事務組合(天孫降臨ひむか共和国)と椎葉村が特別協賛しています。

 

★乃南アサさんインタビュー

――完成した映画を見ての率直な感想をお聞かせ下さい。

 

【乃南さん】「ええ話や」と、思わず泣いてしまいました(笑)。原作の内容と基本的に変わらず、すごく忠実に描いていただきました。

 

――役者さんの演技はいかがでしたか。

 

【乃南さん】市原悦子さんは、本当に役作りに集中してくださって……。最初は私のイメージを聞きたそうでしたが、「スタッフの皆さんと市原さんのイメージでやってくだされば」と申し上げました。これは市原さんのものになっていると思います。

 

林さんも爽やかさをかなぐり捨て、ものすごい集中力で演じていただきました。話が進むにつれて表情が段々変わっていく演技力が、すごいなと思いました。

 

とにかく山の風景、森の中、水の流れなど椎葉の自然が、すごく丁寧に撮られていました。

 

――映画のクライマックスのシーンはホロリとさせられました。

 

【乃南さん】「自分は良い人間じゃない」と自分が犯したことを正面から受け入れる時は、誰でも勇気がいると思います。翔人の場合は過去の犯罪の告白でしたので、それを受け止めて聞く側も真剣勝負だったと思います。

 

――「しゃぼん玉」の小説の舞台に、椎葉を選ばれた理由を教えてください。

 

【乃南さん】偶然です(笑)。都会の生活で完璧に落ちこぼれ、ドロップアウトしただけでなく、行き場を失い、帰る場所も、食べるものも、お金も、生きる目的も、希望も何もない子が、自分が生き延びる為にどんどん罪を重ねていく。そういう子は、もうこれ以上逃げ場のないところまで追いつめられないと、自分と向き合わないのじゃないか。そういう思いがあり、「別冊るるぶ九州」を買って、ダーツの旅みたいに目をつむって指さしたところがたまたま椎葉でした。

 

最初に地図で椎葉を見つけた時は、どうやって行ったらいいのか分からないくらい、予備知識も何にもなかったです。

 

――実際に椎葉まで来られた時の最初の印象は。

【乃南さん】突然よく分からない人間が一人で椎葉にやってきて、対応された方達も戸惑われたと思います。取材の目的を明確に伝えられなかったので、「何が知りたいんですか」と聞かれても答えられない……。だからすごくうさんくさい人間が突然やってきて、村の秩序を乱そうとしている感じだったと思います。

 

それでも役場の若い人が案内してくださいました。そして、タクシーを呼んでいただき、運転手さんにいろんなところを案内してもらいました。

 

椎葉を選んだ時に、椎葉を舞台にする気にはなっていたと思います。私は本を書く場合にプロットを組まず、出たとこ勝負なんです。でも椎葉に来たからには何か拾って帰りたいので、ウロウロしていました。

 

山間ですから太陽が隠れてから完全に暗くなるまでが長いんです。そして、段々とひっそりしてきた時に、向こうの山の同じ目線の所に家が建っているのが見えましたが、近そうだけどそこに行くのには時間がかかるんだろうなと思いました。そのころから想像力がちょっとずつちょっとずつ動きだしたという感じですね。2泊3日の旅でした。

 

映画化する際に、東監督もプロデューサーも、私が椎葉にこだわっている気持ちを汲んでくださり、実際に椎葉でロケをしていただきました。映画では圧倒されるほどの山深さとか、静けさとかがすごく良く出ています。私は1度行っただけでしたが、懐かしくもあり、(映像が)すごく綺麗で嬉しかったですね。

 

昼と夜の気温の寒暖差や、日中の日差しの強さ、空の青さは宮崎ならではと思います。平家まつりのオープニングの時に、風船をもらって空に離す子供たちがいて、全然雲がないなかに、風もなく風船がまっすぐ上っていくのを見て、本当に綺麗だなと思いました。まるでデジタルハイビジョンを見ているようでした。

 

――直木賞を受賞した「凍える牙」と違い、「しゃぼん玉」は犯罪者のその後の再生に向けての話になっていますね。

 

【乃南さん】考えてみますと、「凍える牙」などの一連のミステリー系では、何かの罪を犯してしまった側とその人を捕まえる側がありますが、私は捕まえる側を書いていても心情的には罪を犯してしまった側に目がいきます。それは「凍える牙」を書く前からそういう傾向があり、それ以前に書いた「風紋」では犯罪被害者がテーマでした。

 

罪を犯したり、罪を犯されたり……。警察というのは犯罪者を捕まえればいいだけの話ですが、傷つけた人間も傷つけられた人間も、当事者にはその後の人生があります。どうやってその後の人生を生き直していくか、どう続けていくかとか、そういったものが自分の中のテーマの一つになっています。

 

――宮崎の印象をお聞かせください。

 

【乃南さん】どこに行っても、親切だなと思います。ここの子供たちを見ててもすごく思いますが、大人の目がちゃんと子供たちに注がれていて、危害を及ぼすことでなければ、好きにやらせている所がありますね。ですから、子供たちの表情が素直ですごくいい。東京の子供たちとの一番の違いだなと思います。大人達の視線も、自分の子供だけじゃなく他の子供たちも見守るという感じがあるので、穏やかになるのではないかと思います。

 

――そういう場所だからこそ、林さん演じる翔人が少しずつ人間らしさを取り戻していくのですね。

 

【乃南さん】体を動かして、痛い思いもして、汗もかいて、怖い思いもして、よく食べて、焼酎のお湯割り飲んで、ちゃんちゃんこ着ておこたに入って……。都会の人達はそういうことをどんどん失っている気がします。コタツもないし、畳もない。もちろん囲炉裏もない。そうすると火の暖かさも分からない。いつのまにかすごく遠くにきちゃっているのかもしれないなという危惧を抱きますね。

 

――今回の映画には、そうしたメッセージも込められていますね。

 

【乃南さん】小説は説明するものではなく、お読みいただいて感じていただくものですが、映像はそれが目からダイレクトに入ってきますので、こういう暖かさ、こういう夕餉(ゆうげ)、それこそ「おかえり」とか「ただいま」とか声を掛けてもらうこととか、そういうちょっとした積み重ねがすごく大事だと感じていただけると思います。

 

――最後に、県北の皆さんへのメッセージをお願いします。

 

【乃南さん】平家まつりのセレモニーの後でブラブラしているだけで、たくさんの人に声を掛けていただきました。子供たちもみんなあいさつをしてくれます。前回来た時に知り合いになった若社長とバッタリ会ったら、「オッ」とあいさつができるというのは、自分の古里ではないのですが、すごくありがたいことだと思います。東京ではまずないことなので、ここで助け合って生きていく人達の一番の魅力だと思いますので、ずっと大事にしていただきたい。

 

――ありがとうございました。

 

 

◎乃南アサさん◎

1960年(昭和35)、東京生まれ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て作家活動に入る。1988年『幸福な生活』が日本推理サスペンス大賞優秀作になる。1996年、『凍える牙』で直木賞を、2011年『地のはてから』で中央公論文芸賞を、2016年『水曜日の凱歌』で芸術選奨文部科学大臣賞をそれぞれ受賞するなど著書、エッセー集など多数。巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている。

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